生物処理への応用
微生物の定義について
活性汚泥法などの生物処理法は、生物反応槽(曝気槽)で混合培養される微生物群を利用しての処理方法のひとつです。
微生物を厳密に定義するのは、なかなか難しく、個体の大きさがおよそ1~10μm(μm=1000分の1mm)程度の生物体を微生物と呼んでいるようです。ただし、水処理の分野では原生動物、微小後生動物などを含めて、総称して微生物と呼ぶことも多々あります。
活性汚泥法を中心とする生物処理は、古くから普及しており、大変すばらしい処理法です。
浄化のプロセスにおいて、微生物は大変重要な役割を担っています。
水処理に利用・応用されるバクテリアや酵母などの種類は、20種とも30種とも言われていますが、これに原生動物や微小後生動物などが加わると、水質浄化に寄与する生物体は、上図の示すように相当なボリュームになります。
廃水処理のプロセスについて
廃水中の汚濁物質は、まず最初にバクテリアや酵母などの微生物群によって摂取、代謝され、固形物に変換されながら生物フロックを形成していきます。
この段階において、廃水はかなり浄化され、静沈しておくとフロックが沈降分離します。
しかし、まだフロックとして形成されていない残存SS分や溶解性有機物のBOD分があり、処理の終結には至っていません。
そこで、さらに大きな個体をもつ原生動物や微小後生動物が、初期処理に貢献した微生物群の一部や、まだ処理しきれていない汚濁有機物質を摂取します。
これが水処理生物の食物連鎖です。
このように、生物反応槽での微生物や原生動物などは、自然界でバランス良く成長、増殖を繰り返し、廃水はより清澄性の高い処理水になっていきます。
微生物の出現順序について
各生物が摂取した食物源(有機物等)は生物体に取り込まれ、生体の成長に使われたり、呼吸エネルギーとして消費されたりします。
したがって、良好な処理水を追及するには、可能な限り微生物群が成長、増殖するための環境条件を適切に制御する必要がある訳です。
微生物の増殖について
1つの細胞が分裂して2個になります。
早いものは、20分前後で分裂を繰り返します。
バクテリアの一世代を20分とすると、24時間後には2
71つまり、472×10
20個に増殖します。
天文学的な個体数に増殖してしまいそうですが、実際には、あるところで平衡状態を保ち、無制限に増え続けることはありません。(下図参照)
・対数増殖期:最も細胞分裂が活発となる時期。
微生物の種類ごとの世代時間で細胞分裂する。
・定 常 期:微生物の成長スピードも遅くなると同時に、死ぬスピードが早くなる。
死滅期と増殖期が平衡状態となる。
・死 滅 期:栄養状態の悪化・環境条件の悪化等で、対数増殖期の逆で、対数的に
死滅する。
・十分な食物量が確保できなくなった。
・十分な酸素量が供給されなくなった。
・古い細胞の物質代謝率が低下した。
などの理由から、栄養条件や環境条件が少しずつ変化していくからです。
生物処理は、微生物の数が「多ければ多いほど良い」というものではなく、各種の
微生物群のバランスによって支配されているのです。
バランスが良ければ物質代謝が盛んになり、同化作用・異化作用の相反する作用が
活発に、円滑に行われ、より一層の浄化処理効率が高められるからです。
活性汚泥ピラミッドについて
活性汚泥法や生物膜法の反応槽には、多種類の微生物群や微小動物が出現します。
今まで説明してきたように、微生物とは細菌・放線菌・糸状菌・酵母や単細胞の藻類などをいい、原生動物・後生動物は微小動物と呼んでいます。
《良好な活性汚泥ピラミッド》
良好な生物処理をするためには、このような関係が良いと言われています。
微生物
細 菌 |
バクテリアと呼ばれる単細胞生物。
|
放線菌 |
細菌とカビの中間的形態をもつ。
|
糸状菌(カビ) |
糸状の菌体をもつ多細胞の生物で、菌体が集合して大きな菌糸
体を形成。 |
酵 母 |
細胞内小器官をもった真核生物で、一生の大部分を単細胞で生
活する。 |
単細胞藻類 |
緑色になった水槽や池にいる小さな藻。シアノバクテリアが注
目されている。 |
微小動物
原生動物 |
1個の細胞からできている動物で、ズーグレア・ボルティセラ・
アスピディスカなど。 |
放線菌 |
袋形、環形、節足動物などで、輪虫類・線虫類など。
|
生物処理は、微生物・原生動物・微小後生動物など、生態系が適正な食物連鎖で形成され
ている時には、高い浄化能力を得る事が出来るため、水処理への期待は大変、大きくな
ります。
しかし、生物処理施設の運転管理には数々の複雑な操作条件があり、適切に対応しつ
つも原因不明で処理効率が低下してしまい、永年の経験から得られた「カン」に頼ら
ざるを得ない事も多く、いつも安定した維持管理が出来るとは限りません。
・廃水負荷量の増大
・廃水の水質性状の変化
・水温、DO値の変化
・PH、MLSS
・返送汚泥量
・滞留時間の減少
・BOD負荷
・有害物質の混入
・SV30.SVI値
等々、確認すべき操作条件はたくさんあります。
それゆえ、一度くずれた状況を元の良好な状態に戻す事は相当な時間と労力が必要となり、管理する技術者の心労は計り知れないものとなります。
最後に
弊社でも、廃水処理施設の保守点検業務を請け負っていますが、トラブル発生時の対処には幾度となく悩みます。
通常時と比較して、どこがどう変わったのかを判断する日頃の観察力と、積み重ねた日々の貴重なデータからの考察が多くのヒントを与えてくれます。また、原因を根気よく追及しながら、当面の応急措置を講ずる努力も必要となります。
1914年に活性汚泥法が開発され、今日に至るまでの約100余年、すぐれた処理法にもかかわらず今の世でも管理技術者は、神経を使い頭を悩ませています。最後に、水処理管理に従事する皆様方の御健闘をお祈りいたします。
参考(弊社オリジナル工業薬品 ”アクティブバイオ 菌多郎” を使用してのフィールドテスト結果)
微生物製剤”アクティブバイオ 菌多郎”を使って弊社の管理物件、2ヶ所程度をピックアップし変化をグラフ化しました。
食品加工工場(長時間活性汚泥法:300m
3)
その1
・原水
BOD:500~800mg/L
SS :150~200mg/L
・処理水
BOD:15~20mg/L
SS :10~20mg/L
食品加工工場(長時間活性汚泥法:800m
3)
その2
・原水
BOD:1000~1200mg/L
SS :400~500mg/L
・処理水
BOD:5~10mg/L
SS :5~10mg/L